2.4W1Hの原理

全く事情を知らない人へ事情を分かりやすく説明する場合にどうしたらいいでしょうか。事件が起こり、110番に連絡する場合を考えればわかりやすいかもしれません。電話の受け手の係官は、最初は誰が何のために電話をしてきたかは、全くわからない状況なので、基本的なことを伝える必要があります。つまり、私は誰で、どこにいて、いつ何が起こったかを伝える必要があるでしょう。こうしたことが、我々がある物事について話し合うことの基本条件です。

普通我々はある程度状況を共有している人とかかわることが多いので、こうしたことをいちいち確認しなくても何のことかはわかることが多いのですが、逆に相手が自分の言うことは分かっているはずだと前提してしまい、誤解することもあります。「あの話しどうなった?」と聞かれて、両方が同じことを頭に思い浮かべればいいのですが、違うことを考えていたら当然話は食い違います。

他人の視点から見れば、人は普段、自分の関心ごとに一杯になっています。ですので話し相手の状況にすぐさま入り込むことは難しいのです。だから相手と自分が同じことを話題にしているのかを確認することが必要です。その根本的な視点が、いつ、どこで、誰が、何を、どのように(when,where,who,what,how)というもので、これはすでに古代のギリシャのレトリックの基本でした。これらはトポス(議論を発見する視点)と言われますが、今でも話をする際の基礎です。

しかしこうしたことも意識されることなく、面倒だからといって省略されることが多いのです。また聞き手のほうでも、いちいち聞くのが面倒だったり、相手をうるさがらせたりしたくないので聞かずにいると話がだんだん分かりにくく曖昧になるのです。日本では以心伝心とかいいますが、これはほとんどの状況では当てにならないことを前衛としておいた方がいいでしょう。特に日本人がコミュニケーションに長けているという証拠はありません。曖昧である事が美徳のように言われたりしますが、日本人以外の人が何でも考えを言葉にできたり、言葉にしようとするわけではありませんし、どの国の人間でも、いいたいことを飲み込んだり、逆に物事をはっきり言わねばならないことはあります。

話すときこうしたことを相手がわかってかもしれないと考えても、再確認するためにここうしたトポスを確認することは意味があることなのです。それは相手に自分の認識を伝え、相手も自分の話手が状況をどのように理解しているのか再確認できるからです。不確かな土台に建てた家は、積み上げてももろく崩れてしまいます。特にわかりづらい話では、相手の言うことの意味を確認しながら議論することが重要です。それはまた話の目的の明確さにも繋がります。

4W1Hの他にもトポスとしては、比較や要因、原因、様態、定義、比較、類似性 など様々なものがある。与えられたテーマに対して、このような視点から議論を展開することができる。

アリストテレスの「レトリック」や、クインテリアヌスの「Institutio Oratoria」などを参照。